HOME KAZUE MIZUSHIMA STRINGRAPHY STUDIO EVE

子ども文化交流フェスティバル2004 act B(2004年03月)

於:ふじ丸
2004年3月19、20、21日


fujimaru

2004年3月19日から21日まで、豪華客船“ふじ丸”をチャーターして「子ども文化交流フェスティバル2004」が開催された。参加対象者は小学校4年生以上中学生までの子どもとその保護者ということで、参加者、講師、スタッフを含めて約440人が2泊3日の文化クルーズへと出発した。→スケジュール

<ワークショップ、船上での文化交流体験>
於:ふじ丸 ベランダ 2004年3月20日、21日

fujimaru



今回の企画の目玉は何と言っても2日間10時間に渡る子どもを対象としたワークショップだ。ストリングラフィのワークショップには小学校4年生から中学校3年生までの27人が参加した。11歳から12歳の子どもが多く、約3分の2が女子、3分の1が男子だった。

時間がたっぷりあるので、ストリングラフィの制作、音の出る仕組み・音階の仕組みの説明に続いて「大きな古時計」のアンサンブルに挑戦することにした。子どもだけの大合奏は私も未経験だ。翌日の発表会に間に合うかどうか心配しながら教え始めたのだが、子ども達が一番夢中になったのはこの「古時計」の練習だった。

27人いっぺんに演奏するのは無理があるので、小学校4年生グループ、5年生・6年生グループ、6年生・中学生グループの3つに分かれて1番ずつ演奏することにした。学年が長ずるに従って複雑なアレンジにチャレンジするというプランだ。どの年齢の参加者もびっくりするほど集中し、どんどんうまくなっていった。特に感心したのは他のパートを聴きながら、合わせて演奏するということが自然に出来ていた点だ。ストリングラフィに興味を抱くだけあって音楽好きな子どもが集まっていたのかもしれないが、指揮者もなしで10人前後が息の合ったアンサンブルをするにはなかなか高度な音楽的センスを必要とする。

fujimaru fujimaru

これまでのストリングラフィ ワークショップでは、“曲”を演奏するというより、小鳥の声、雨の音といった“音”を発見してみようというような切り口が多かった。今回これまでのやり方に加えて、「大きな古時計」を合奏したことで見えてきたことがある。それはほとんど全員の参加者が「大きな古時計」の演奏を一番楽しんだということだ。「なーんだ、つまらない。」と思われる方もいらっしゃるだろう。なぜなら“ドレミ”に捉われない“音”の世界に身体、美術の領域をも含みながら想像力をはばたかせて表現できるところにストリングラフィの独自性があるように思われる方も多いだろうから。しかし子どもたちの反応を見ていると、人間がどうして楽器を作り、“メロディ”“和音”“リズム”といった“音楽”を創り続けて来たのか腑に落ちるものがあった。“音楽”を奏でることは楽しいし、深いということだ。

「古時計」のメロディを弾くことは10歳の小学生にもできる。しかしこのシンプルなメロディを音楽的に演奏するのはとても難しいのだ。それは子ども自身も感じていて、「亡くなったおじいさんの時計、という懐かしい感じで弾いてみよう。」とか「やさしい音で弾いた方がこの曲らしいよね。」と結構高度なアドバイスをするとすっと納得して、イメージ通りに弾こうといつまでも楽器から離れようとしない。また自分のパートを弾きながら、自然に身体が動き出す子どももいるし、糸に沿って歩きたがる子どももいる。身体性を伴った演奏というものを、言われなくても自分で発見しているのだ。総練習で、「自分が弾いていないとき棒立ちになるとプレーヤーっぽくないから、ピチカート(弾き)で時計になっているのはどうか」と提案すると、これもまた雰囲気たっぷりに表現してくれた。ワークショップの最初に「いろんな音を出してみよう」といって、同じテクニックを教えたときとは表現に格段の差があった。「大きな古時計」を弾き込む中で、曲のイメージ、音に対する自分の気持ちが育って行った結果なのだろう。楽しくなると表現にも主体性が出てくる。


21日の発表会では、ストリングラフィの楽器としての成り立ちをグループごとに実演付きで説明した後、「大きな古時計」を演奏した。大成功だった。何より嬉しかったのは、船酔いで朝のワークショップに出られなかった子ども達が、「絶対に弾きたい!」と言って次々にカムバックし、本番のステージでは全員が揃って演奏できたことだ。続いて私たち、ストリングラフィ アンサンブルの「大きな古時計」を披露した。その演奏を、子供達が真剣そのもの、食い入るように見つめていたのが印象的だった。

<船上コンサート>
於:ふじ丸ベランダ 2004年3月20日 21:00〜22:00

fujimaru



20日(クルージング2日目)は7時間のワークショップを終えた後、夜9時から約1時間の船上コンサートを行なった。場所は“ベランダ”と呼ばれる細長いステージ(18mx6m)。ストリングラフィにぴったりのロケーションだ。普段はティーサロンとして使用されているのだろうか。椅子を並べ替えると約120人入りのライブスペースが出来上がった。後ろの壁は大きな窓になっていて海が見える。日中なら洋上の景色を堪能しながら音楽を味わうことも出来るだろう。実をいうと私たちメンバーは、前日の午後に太平洋沿岸の風景を眺めながらストリングラフィをセットするという幸運に恵まれていた。

夕食後、人形劇・落語などのステージを楽しんだ人々が“ベランダ”へと集まって来た。かすかな揺れと背後に広がる夜の海の気配、コンパクトな空間に満員の観客、豪華客船という非日常を共有する者同士の親密感の様なものが、これから始まろうとするコンサートへの期待と相まって熱気を生み出している。ステージでは照明に照らし出されたストリングラフィが昼間とは違った幻想的な雰囲気を醸し出していた。

fujimaru fujimaru



一曲目の“ヴィバルディの春”を弾き出した途端、観客から歓声が漏れた。演奏していて観客との一体感を味わえる、このような瞬間こそいつも私たちが求めているものだ。“大きな古時計”“もののけ姫”など曲調によって場の空気が変化するのが感じられる。“トトロのさんぽ”“きらきら星”など観客参加のプログラムでは、トークも絡めて和やかなムードに包まれる。ラストの“上を向いて歩こう&明日があるさ”、そしてアンコールの“パッヘルベルのカノン”まで、充実した1時間のコンサートだった。

初めて体験するクルージングと初めて見るストリングラフィ、大人も子どもも、観客も演奏者もみんながわくわくしていた。好奇心と楽しさで心が柔らかく開いた状態で“文化”に出会うと、より能動的に体験を深めることが出来るのではないだろうか。

HOME KAZUE MIZUSHIMA STRINGRAPHY STUDIO EVE