HOME KAZUE MIZUSHIMA STRINGRAPHY STUDIO EVE

七ヶ浜国際村“技ウィークその 2糸の不思議”(2004年05月)

2004年5月1〜5日
於:七ヶ浜国際村 
http://www.shichigahama.com/kokusai/
1993年、宮城県七ヶ浜町に針生承一氏の設計によって建設された文化施設。本格的なコンサートができる機能の完備されたホールの他、セミナー室、工房などの学習施設も充実しており、周辺住民の活動の拠点となっている。また海外とのネットワークづくりなども盛んに行われている。


shichigahama

昨年から始まった「技ウィーク」は、ひとつの素材にスポットを当て、生活に息づく「技」を様々な角度から紹介するゴールデンウィーク イベントだ。今年は「糸」をテーマに、音・織り・文字・技術・食などのテーマに沿って、聴く・観る・知る・食べる・遊ぶといった体験を通して糸の不思議を実感してもらおうという5日間のプロジェクトだった。

ストリングラフィは「糸を聴く」というテーマでイヴェントに参加し、以下の4企画が実施された。

(1) エントランスホールでミニライヴ(20分)を毎日3回ずつ(4日のみ1回)実施。
(2) プリマスハウス(七ヶ浜の姉妹都市、アメリカのプリマスでの入植当時を再現した家)で音階の出し方、ストリングラフィの作り方に関するワークショップ(45分)を毎日1回実施。(4日を除く)
(3) セミナー室に体験コーナーを設置し開催期間全日に渡って公開。(観客が実際にストリングラフィに触れ音を出すことができる。)
(4) 国際村ホールでストリングラフィ・アンサンブル コンサート(90分、休憩15分を含む)を1回実施。(4日 14:00〜15:30)


糸を聴く(実施内容の詳細)

shichigahama




(1) ミニライヴ(於:エントランスホール)
ミニライヴが行なわれたエントランスホールの天井からは、数十枚に及ぶ「さをり織り」のタペストリーが展示された。「さをり織り」は大阪の城みさをさんが生み出した織りの手法で、現在では世界中に広まっている。

リハーサルを進める中で、「糸を織る」というテーマでこのイヴェントを飾る「さをり織り」を、「糸を聴く」ストリングラフィのパフォーマーが着用して演奏してはどうだろうと閃いた。早速お願いしたところ、快く5着分の「さをり」を貸していただくことが出来た。

色彩あふれる「さをり」のタペストリーと白一色のストリングラフィの糸、その間を縫うようにして音楽を紡ぎ出す「さおり」を纏ったプレーヤー。糸を「織る」、「聴く」という2つのテーマが視覚と聴覚に心地よく響く。この試みは相乗効果を生み出し、ミニライヴ後、「さをり織り」の展示・ハタ織体験・即売会が行われるセミナー室は大盛況だった。

ライヴでは、ビバルディの「春」から始まって、「大きな古時計」や5人のフルメンバーによる「ジュ トゥ ヴュ」「美しく青きドナウ」などが演奏された。約20分間、お年寄りから小さな子どもまで様々な年齢層の観客が、初めて聴く「絹糸の調べ」に熱心に耳を傾け、熱い拍手を送っていた。

shichigahama shichigahama



(2) ワークショップ(於:プリマスハウス)
プリマスハウス(注1)でのワークショップには、毎回、定員である30名以上の参加者(大人・子ども半々)が集まった。まず糸に触れて様々な音を出してみた後、ストリングラフィで、どうしてドレミの音階が弾けるのかを考え、簡単なメロディ演奏に挑戦した。最後に各自ストリングラフィを製作して持ち帰ってもらった。ライヴ演奏を聴いて、ストリングラフィについてもっと知りたいと思いワークショップに参加した親子が多かったようだ。45分という短い時間ではあったが、演奏体験・仕組みの説明・楽器制作と、密度の濃いワークショップになった。

(注1:1622年アメリカのプリマスに建てられたフォートミーティングハウスをそのまま復元した、アメリカ開拓史ミュージアム。)


shichigahama



(3) インスタレーション&体験コーナー(於:セミナー室2)
国際村の建物全体のイメージである、アンモナイトの螺旋を模して天井から造形的に設置されたストリングラフィのインスタレーションは、同時に自由に触ることのできる体験コーナーでもある。用意された手袋をはめて訪れた観客が糸を擦ったりはじいたりして音を出すことができるようにした。まるで、動物や鳥の鳴き声のようだと驚く方、「うるさい!」と耳を塞ぐ方、素材について熱心に尋ねたりされる方など反応は様々だ。一番驚いたのは子どもたちの熱心さ。とにかく音を出すのが楽しくてたまらないらしく、様々な場所を擦ったりひっぱったりして大喜び。すぐに飽きてしまう大人と違い、糸から発せられる不思議な音との対話を体中で自由に楽しんでいるようだった。小さな子どもにとって「音」とは何なのだろうと考えさせられる5日間でもあった。

(4) ホールコンサート(於:国際村ホール)
宮城県出身の建築家針生承一氏の設計には、郷土に対する細やかな愛情が感じられる。国際村ホールは舞台後方がガラス張りになっており、黒幕を開くと七ヶ浜の海を一望できる、日本で唯一の「海の見えるホール」である。

コンサートではホリゾントに黒幕を引き、ステージに4段階の高低差を付けた。デコレーションも含め5セット、約150本のストリングラフィを設置した。ブラックライトとブルー・アンバーをメインとした照明が絹糸と紙コップを幻想的に浮かび上がらせ、異次元の世界を演出した。ゴールデンウィーク中とあって、家族連れの観客が多い。また七ヶ浜には外国人居留地があるということで、国際色豊かな客席の風景だった。

プログラムは2部構成。前半にビバルディの「春」、美空ひばりの「お祭りマンボ」、「大きな古時計」などのスタンダードナンバーを演奏、楽器の仕組みの説明なども交えて進行した後、休憩を挟んだ後半では、水嶋のオリジナル曲「森の記憶」、「The Shadow of Wings」、そしてステージでは初めての演奏となる「Fading Autumn」を演奏した。「Fading Autumn」は演奏時間が20分近くあり、音のバリエーションや動きも豊富で、演劇的要素の高い作品だ。水嶋がインドツアーの印象をベースに作曲したものである。

プログラム終了後、拍手の中でホリゾントの黒幕が静かに開くと、背景に七ヶ浜の美しい風景が広がる演出。初めてこのホールに来た人も多く、予想外の展開に改めて歓声と拍手が湧き起こった。アンコールに応えてサティの「ジュ トゥ ヴゥ」が始まると、5月の七ヶ浜の中を楽しげに回転しながら演奏する5人のパフォーマーの姿に、いつまでも拍手が鳴り止まなかった。

ストリングラフィ・アンサンブルでは、常々オリジナル曲を照明・音響の完備したステージで演奏したいと願っている。諸事情で実現することが難しいのだが、今回は仕込みやリハーサルにも十分な時間を充てることができ、私たちにとっても満足のできるコンサートとなった。

shichigahama shichigahama
shichigahama shichigahama



HOME KAZUE MIZUSHIMA STRINGRAPHY STUDIO EVE